木造伝統構法を採用する4つの理由

私は、大工、建築士として主に伝統的な構法での家づくりをしています。

今回は、なぜ伝統構法(工法)で家づくりをするのか、伝統構法ってなに?というところも含めてまとめました。

日本の木造建築の歴史は古く、縄文時代には石斧で樹木の伐採や加工をし、竪穴式住居がつくられていたと考えられています。また、腐りにくいクリを建材、キメの細かいトチノキを器に使うなど、用途に応じて樹種が選択され、耐久性を高める工夫もされていたようです。その時代に木の特性を認識し、使い分ける知恵が知られていたことに驚きます。
現在に至るまで、神社や仏閣、数寄屋、民家など、暮らしや文化、地域や自然と密接なかかわりをもちながら発展してきたのが伝統建築です。伝統構法は、地域や時代によって多様であり明確な定義はありませんが、代表的な特徴や魅力について述べてみます。


1.しなやかで粘り強い構造

近年、実大実験などの研究によって、地震に対して変形はするが、容易に倒壊せずに持ちこたえる粘り強い性質を持っていることが実証されています。

構造の特徴の一つは、骨太の柱や梁をしっかり組み、木栓などで締めた木組みです。また壁には通し貫を入れます。通し貫とは、柱に穴を開けて板状の木材を通しクサビで締めることで、柱が倒れるのを防ぐ役目をします。木組みの接合部は、変形するにつれてめり込み抵抗する力も大きくなっていくため、変形はしても非常に粘り強いのです。

二つ目は、土壁です。土壁は、地震や強風などの外力に耐えるための耐力壁として、最大で壁倍率が1.5まで認められています。巨大地震などの際は、土壁が壊れ外力を吸収します。万が一、土壁が壊れたとしても、通し貫や木組みによって倒壊を逸れ、人命を守ります。

三つ目は、石場建てです。石場建てとは、石の上に柱を立てる造りで、柱と石の摩擦を超える巨大地震などの力を受けた際に、石と柱がずれたり浮いたりすることで、建物に伝わる地震力を減らします。簡易的な免震装置のような役割を果たすのです。

在来工法や2×4工法は、剛性を高めて耐震とする考え方ですが、伝統構法は外力をうまく逃がすことで地震などに耐える考え方を基本としています。

IMG_2371石場建ての柱と柱に通した貫


2.日本の山を守り、環境にやさしい

日本は、国土の約7割を森林が占める世界有数の森林大国です。しかし、供給される木材の7割以上を海外からの輸入に依存しており、歪んだ現状となっています。戦後の造林政策で植林された木が育ち、木材として利用できる時期になっていますが、一方では日本の林業は衰退し、手入れされずに森林が荒廃してしまっています。そこで、積極的に国産材を利用し、資金を山へ還元する必要があります。

また、その土地の気候風土で育った木を使用することで、耐久性が高くなり、適切にメンテナンスをすることで少なくとも100年以上もつ長寿命な家となります。長寿命であることは、環境への負荷を減らし、また自然素材は廃棄する場合でも土に還ります。私たちが生きていく上で欠かせない、きれいな水や空気は山が与えてくれるものです。そして、安心して長く住めることは、住む人にとって大切なことでもあります。

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3.文化、人とひと、人からひとへ

伝統建築の多く残っている京都や白川郷などは、海外からの注目も高く人気がありますが、日本全体でみると、伝統建築や職人は急速に失われています。日本で生活していると、改めて日本の伝統文化や建築の良さを実感することは難しいのかもしれませんが、先祖から脈々と受け継がれてきた文化や精神性、またそれらと密接な関わりをもつ建築は特有で、魅力に溢れています。私自身、日々の仕事を通してその魅力を実感しています。大工としては、工業製品の建材をマニュアル通りに取り付けているだけでは仕事がおもしろくない。「良いものをつくりたい」と、木と向き合い、悩み、技能を磨く、それが大工仕事のおもしろさです。先祖が築き上げたものを継承し、次の世代につなげることは、私たちにしかできないことです。また、受け継いだものを発展させるような努力をしていかなければならないでしょう。

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4.心地よさ

木や土など自然の素材で包まれた空間には、なんとも言えない心地よさを感じます。住宅は、長ければ数十年暮らす場所であり、その空間は住む人に与える影響も大きく重要です。「なんかいいよね」「なんか落ち着くね」といった感覚は数値化できませんが、ひとが生活する空間においては最も大切なものだと考えています。その感覚は、触れたときの感触や、香り、自然素材の豊かな表情、生きた材料のもつエネルギーからくるものなのでしょう。そして、暮らしながらその家族と歴史を刻み、時とともに経年変化でさらに深みを増していく家に、愛着をもって住んでもらえることは、つくり手としての願いでもあります。

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